2012年4月23日月曜日

さかえの時々論拠



■気になる本 - 日本人のためのイスラム原論 -
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 ある事情があって、このような「気になる本」の紹介が
中断しそうです。もともと、週1回でスタートし、それが
2週に1回になり、月に1回となっています。また、
それも延びそうです。ただ、読書は続けています。

 ある人に、法律をどう思うか? と問うてみました。
すると、回答は、「トラブルを解決するためのもの」と
いうのです。 皆さんはどう思いますか。

 その部分もあるでしょう。しかし、日本においては、
それだけでは不十分です。法体系をご存じない方が
多いのではないでしょうか。勿論、私も詳しくは
わかりませんが、法律の外郭の仕事(代理、仲介、
委任等)をしてきましたから、少しかじりました。

 六法(憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、
商法、これに憲法が入るのがよくわかりませんが)が
あり、これをベースにして特別法、規制法とかがあります。

一つの例です。
 建物や土地の賃貸借や地上権については、借地借家法
というものがありますが、これは民法の賃貸借の条項
に対して、特別に定めた法律です。

 あなたが、アパートを借りる場合、不動産業者から
事前に見せられた契約書をチェックする場合には、
まず、不動産業者を規制する「宅地建物取引業法」から
チェックをし、そして、借地借家法をチェックをし、
そして最後に民法にたどり着くという確認が必要です。
(現実には、不動産業者のいうことを信じて契約する
でしょうが)

 このように、法律は、「予防」という点でも利用
できますし、もし、トラブルになったらある法律の
ある条項を示して、解決にはかるのが裁判です。
(ここでは調停、和解、少額訴訟も含めました)


正式に邪悪な行為は何ですか

 また、法律は、作成時点で、なんというか精神
みたいなものがあります。
 例えば、戦争中(大東亜戦争)、戦場にいった
家庭を大家がかってに追い出さないようにした
「借地法」、「借家法」(いずれも旧法、ただし、
平成4年8月1日以前の契約は、現在でも旧法を
適用することになっています。)があります。
 ところが、旧法では、土地や建物を貸すと、
貸主(大家)から契約解除が実質できないという
問題がでて、一定期間がきたら借主が返すしかない
「定期借地」、「定期借家」というものができて、
旧法は、「借地借家法」に新しくなりました。

 このように法律は、時代の流れというか要請に
応じて変化していきます。そして、国会で審議され
成立すれば、法律は施行されます。

 ところが、ある世界では、違います。
著者の「はじめに」から引用しますと(P2)
----
宗教とは法である。
では法とは何か。
法とは神との契約である。
神との契約は宗教の戒律(かいりつ)であり、
社会の規範であり、国の法律である。
この4つがまったく一致するのが宗教の理想であり
イスラム教とまさにとのとおりである。
---
と述べています。ということはイスラム世界(イスラム
教を信奉する社会)は、宗教に基づいて9.11
のようなテロを行う社会なのか?

 皆さんは、イスラム教と聞いて、どう思うので
しょう。「テロ」を作り出す宗教、戦いが好きな
宗教と思っておりませんでしょうか。ところが、
まったく違うのです。宗教のお手本のようだと
著者はいうのです。

いま
「日本人のためのイスラム原論」(著者 小室直樹、
出版社 株式会社集英社インターナショナル、
発行年月 2002年3月31日)を読み終えました。

 著者のプロフィールは、巻末にあります。
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小室 直樹(こむろ なおき)
1932年、東京生まれ。京都大学理学部数学科、
大阪大学大学院経済学研究科を経て、フルブライト
留学生としてアメリカに渡る。ミシガン大学大学院で
計量経済学、ハーバード大学大学院で心理学と社会学、
マサチューセッツ工科大学大学院で理論経済学を学ぶ。
帰国後、東京大学大学院法学政治学研究科博士課程を
修了。東京大学法学博士
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 著者は、今年の9月7日頃に亡くなられたようです。
1932年(昭和7年)9月9日生まれです。
(弟子の副島隆彦教授の情報による)
 衷心よりご冥福をお祈り申し上げます。  合掌

 さて、著者は、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の
共通点は、一神教であり、同じ神を信奉していると
いいます。一神教については、次も参考してください。
(参考)一神教の闇 アニミズムの復権

 しかし、キリスト教には法もなければ、規範も存在して
いないといい、信者が神を信じるには、絶大な努力を
要するといいます。

 ムスリム(イスラム教徒)は、法を守ることによって
神を信じることになるというのです。

 簡単に著者が述べているイスラム教について、抜き
だしてみます。(一部編集)

■7世紀(日本は大化の改新のころ)にマホメットが
現れ、イスラム教の教えを説くや、アラブに大爆発が起きた。
マホメットが死んでから1世紀も経ないうちに、イスラム
は、絶頂期のローマ帝国をも凌ぐ大帝国を作り上げた。
(P29~30)

■ムスリムになったアラブ人たちは、634年から始まる
戦争において、わずか8年でペルシャ超帝国を滅ぼし、
ローマ帝国からはシリアとエジプトまで奪いとった。
(シリアはキリスト教発祥の地) 彼らは進撃の歩を
止めず、ついに大西洋にまで達し、さらにジブラルタル
海峡を渡って、現在のスペインをも制圧した。
(P30~31)

■「コーラン」の著者は神のアッラーである。もっと正確
にいえば、アッラーの教えを大天使カブリエルがマホメット
に伝えた言葉をまとめたものがコーランである。
コーランは宗教上の啓典(キタープ)であり、マホメット
の言行をまとめたものは「スンナ」であり、啓典ではない。
(P35~36)

■イスラム法のしくみ(エジプトのイスラム法学者の
アブドル=ワッハーブ・ハッラーフの説)
最高の法源(法の基準) コーラン
第二法源 スンナ
第三法源 イジュマー(決断や合意という意味)
      ムジュタヒド(法学者)の合意を得たもの
第四法源 キヤース(類似での評価)
第五法源 イスティフサーン
第六法源 無記の福利
第七法源 慣習
第八法源 イスティスハーブ
第九法源 イスラム前の法
第十法源 教友の意見
(P48~51)


■キリスト教でもイスラム教でも旧約聖書に書かれていた
ことは、真実であるとみなす。(アダムとイブの楽園追放、
ノアの洪水、古代イスラエル人のエジプト脱出、シナイ山
でモーセに神が十戒を下されたことも)
 共通点が多い二つの宗教であるが、決定的に違うのは、
規範(ノルム)の存在である。規範とは、「これをしろ」、
「あれをするな」という命令(や禁止)である。キリスト教
には、この規範がまったく存在しない。これにたいして
イスラム教は規範だらけ。規範なくしてはイスラム教では
ない。(P39~40)

■イスラム教の信者には、基本的な義務として「六信五行」
が課せられている。

 「六信」・・・次の6つを信仰しなければならない。
神(アッラー)
天使(マラク)
啓典(キタープ)
予言者(ナビー)
来世(らいせ、アーキラット)
天命(カダル)


「五行」(アラビア語では「5つの柱」(アルカーン・
    アルハムサ) )
   ・・・その前に清浄の行(身体を清潔)すること
信仰告白(シャハダ)・・・「アッラーの他に神なし、
 マホメットはその使徒である」と口にだして唱える
礼拝(サラート)・・・イスラム教徒の生活は、礼拝に
 始まり、礼拝に終わる。すなわち、夜明け前、正午、
 午後、日没、夜半の5回、メッカの方角に向かい、
 定められた手順に基づいて礼拝する。時間も正確に
 決められている。
喜捨(きしゃ、ザカート)・・・貧しい人への喜捨は
 義務であり、所得の40分の1で、バイトル・マール
 (財産の家)と呼ばれる場所に集められ、政府によって
 貧しい人達に分配される。
断食(だんじき、サウム)・・・イスラム歴の第9月
 (ラマダン)の間、信者は断食をしなければならない。
 この場合、日の出から日没までの間のみ。コーランには
 「その晩は妻と交わるがよい」と待て書いてある。
 ただし、例外もあり。病人、子供、妊婦はしなくても
 よく、戦士や旅行者も除外対象である。
巡礼(ハッジ)・・・イスラム歴の第12月、ムスリム
 の巡礼者たちは、聖地メッカのカーバ神殿を中心に
 行われる儀式に参加する。イスラム教徒の成人は、
 一生のうち最低1度は巡礼を行うべき手あるとされているが
 これだけでは自発的義務である。
(P41~52)

 すごい規律です。いまの日本人も大多数の方は、放り投げて
しまうのではないでしょうか。親や先生から注意を受けるのも
いやなのですから。

 著者は、イスラム教を通して、世界をみごとに俯瞰しています。
また、他の宗教(ユダヤ教、キリスト教、仏教、儒教等)を
イスラム教をベースにして、みごとな解説をしてくれています。

 私達は、学校(小学校、中学校、高校、大学)で、宗教教育
や宗教思想教育を受けていません。だから、この本は、そういう
宗教の歴史、比較を知るには、格好の著書でもあります。

 著者も述べていますが、「比較宗教社会学的に分析した」と
自信をもった本です。

 是非、この本は、高校生、大学生に読んでもらいたい本です。
勿論、社会人のかたにも。そうすると、イスラム圏と欧米の
関係もわかります。


 尚、日本に日本人ムスリムはなぜ少ないのか? に対しても
回答を得ることはできるでしょう。

 また、仏教もイスラム教ほどの規律ではないにしろ、戒律と
いうものがあります。唐の高僧「鑑真」(がんじん)は、
日本に正当な仏教(戒律)を教えようとして753年に
6度目の渡航でようやくたどり着いたが、失明をしてしまう。
(P90)

 戒律は、悟りを開くための正しい方法として釈迦が示した
ものである。(P90)

 その戒律を取り払ったのが、天台宗を開いた最澄であり、
外面的行動に関する規範を取り除いてしまった。(P92)

 儒教の外面的行動部分を取り払ってしまう日本。
そして、イスラム教のような規範を取り払ったキリスト教
が日本に定着していく、その類似性。

 日本人のDNAの一端をみてしまう本でもあります。
(参考)梅原猛の授業 仏教

(11/17)


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