前編はこちら
まずは概要のおさらいです。
【展覧名】
大英博物館 古代ギリシャ展 究極の身体、完全なる美
【公式サイト】
【会場】国立西洋美術館 ★この美術館の記事 ☆周辺のお店
【最寄】上野駅(JR・東京メトロ・京成)
【会期】2011年7月5日(火)〜2011年9月25日(日)
※営業時間・休館日・地図・巡回などは公式サイトでご確認下さい。
【鑑賞所要時間(私のペースです)】
3時間00分程度
【混み具合・混雑状況(日曜日13時半頃です)】
混雑__2_3_4_5_快適
【作品充実度】
不足_1_2_3_4__充実
【理解しやすさ】
難解_1_2_3__5_明解
【総合満足度】
不満_1_2_3__5_満足
【感想】
さて、前編では2章の人を主題にしたコーナーの途中までご紹介しましたが、まだこのコーナーが続いています。今日は2章の途中から最後までをご紹介しようと思います。
<第2章 人のかたち>
[人の顔]
前編でも変わった人物像をご紹介しましたが、人間の個性に対するギリシャ人の関心は顔に向かっていったそうで、目を描き込んだり嵌めこんだりして生命力を獲得して行ったようです。ギリシャ後期のヘレニズム期には有名な人物の肖像の要望があまりにも多くなったそうで、将軍、詩人、哲学者の肖像などはある程度決まった表現で形式が繰り返された(パターン化された)そうです。ここにはそうした様々な人物の顔を題材にした作品が並んでいました。
57 「赤像式カンタロス(酒杯)」
表にサテュロスの顔、裏にマイナスの顔がついた杯で、2人の頭の部分に杯の口があります。2人とも酒の神ディオニソスの従者で、サテュロスは角が生え目を見開いて歯を食いしばるような顔をしています。 まるで鬼のようで狂気があるかな。女性信者のマイナスは目を見開いてニヤっと笑うような感じで、コミカルで面白い顔でした。
神聖な滝プール伝説黄泉
51 「クリュシッポス肖像頭部」
「オイディプス王」の物語を書いたギリシャ三大悲劇詩人の1人クリュシッポスの肖像です。あごひげを生やした厳格な面持ちをしていて、写実的な感じを受けますが、実はこれが作られたときにはクリュシッポスは既に死んでいたそうです。当時は故人の写真などあるわけもないので、どうやって肖像を作ったのか?という疑問が出るわけですが、これは哲学者の肖像を元に細部を変えているものらしく、この作品の隣に元にした像も展示されていました。元にした作品はハゲてるけど確かに顔は似ていて、パターンをアレンジしている様子がよく分かりました。昔の人の肖像はアテにならないのが多いですねw
54 「喜劇役者の像」
奴隷役の仮面をつけた喜劇役者の像です。石に腰掛けていて、ひしゃげるほどニヤケた顔の面を付けています。その面の口の中には本人の唇が見えているのが面白く、本当に面をつけているような感じでした。
この辺には誇張された仮面の浮き彫りなど面白い作品がありました、漫画のようなメデューサの顔の描かれたアンフォラ(壺)もあります。
一旦、ここで階段の横にある扉を通って、入口付近の映像のある休憩室で休みました。8分間の映像ではペルシャとの戦争に勝利して自信を得たことなどを紹介していました。その自信によって神よりも自分たち人間を重視するようになり、生々とした表現を求めていったそうです。
<オリンピアとアスリート>
ここからは下の階の展示で、この章はオリンピアで行われた古代オリンピックやアスリートをテーマとしていました。
[アスリート]
ギリシャの若い男はいつでも戦争に招集される覚悟で鍛えていたようで、外見上の肉体の完璧さは内面の道徳的な正しさを反映していると考えていたようです。裸で訓練していたらしく、裸体像が並んでいます。
noibeは何ですか?
58 「円盤投げ(ディスコボロス)」 ★こちらで観られます
間違いなく今回の展示で一番の見所の彫刻で、ぐるっと周りを360度周りながら見ることができました。オリジナルはギリシャ人彫刻家のミュロンのブロンズ像ですが、これはそれを元にローマ時代に作られた大理石のコピー(ローマンコピー)で、思っていたより大きくて驚きます(と言いつつ私は15年くらい前に大英博物館で観ているはずなのですが、ほとんど忘れていましたw) 円盤投げ選手の写実的な像で、円盤を構えて今にも投げそうな緊張感があり、血管が浮き上がる様子までも見ることができます。ピンと張った腕や弓のようにしなる体、踏みしめる足の指まで、筋肉の収縮や力の伝達を感じ、まるで時間が止まったかのような雰囲気すらありました。「究極の身体、完全なる美」というサブタイトルに名前負けしてません ね。これにはかなり感動しました。
解説によるとこれはローマ皇帝ハドリアヌスの別荘で発見されたとのことでした。
このコーナーには他にもアンフォラに描かれた運動選手たちの作品が並んでいます。裏面は女神アテナになっているのが多いかな。 さらにここには約2分の映像もあり、全裸で競技する古代オリンピックの再現映像となっています。円盤投げや幅跳びなどの競技があり、5日間程度で行われたそうです。前後の3ヶ月は戦争も休戦していたらしく、古代ギリシャ人にとって神聖なもののようでした。
[オリンピア]
このコーナーは1点だけで、オリンピアの1/200の模型が置かれていました。
ここで下階の展示は終わりで、再び上階に戻ります。
<人々の暮らし>
最後の章はギリシャ人たちの暮らしに関するコーナーです。ギリシャ初期は人の姿はいくつかに様式化されていましたが、後期のヘレニズム期には人間の多様性が認識され、様々な年齢、人種、体型が幅広く表現されたそうです。ここにはちょっと驚くような慣習と共に様々な作品が並んでいました。
[誕生、結婚、死]
まずは誕生、結婚、死という人生の大きな節目に関するコーナーです。
75 「クス(酒瓶)」
黒地に茶色でここまで観てきたアンフォラのような質感の小さな酒瓶です。2〜3歳をいき抜いた子供に初めて葡萄酒を味見させるための物だそうで、側面には遊んでいる子供の姿が描かれています。何とものどかで平和な世であったのかと思いましたが、これが作られた時は戦争の時代だったそうです。その時代のアテネ人の苦悩と対照的であると。解説されていました。
この辺には小さな酒瓶が並び、はいはいする子供なども描かれていました。また、読み書きや計算を学ぶ人達の像もあります。
そこにはどのように多くの死海スクロールします。
79 「テティスを捕えるペレウスの浮彫」
真ん中に大きな女性(テティス?)、左にペレウス、右にライオンに変身したテティスが戦っている様子が浮き彫りされた作品です。ペレウスに対して全力で抵抗している感じかな? 解説によると、この頃の結婚は予め決まった相手とのものだったらしく、花婿が力づくで花嫁を奪う側面があったようで、この作品にはそれが反映されているとのことでした。ちなみに女性は15歳くらいで30歳くらいの男性と結婚し、あまり家の外に出ることはなかったようです。何だか女性団体が聞いたら激怒しそうな風習ですねw
86 「コリントス式兜」 ★こちらで観られます
顔を覆ったブロンズ製の兜です。鼻までガッチリとガードしていて、顔もわからなくなるくらいなのですが、これには個々の兵士の特徴を消すという意味もあったそうです。また、耳も隠されているため、伝令が聞こえずづらいという弱点もあったのだとかw
この作品の隣には鎧や脛当て、出征の様子を描いたアンフォラなどもありました。
97 「腕輪」 ★こちらで観られます
C字型の金の腕輪で、両端に牡牛の頭を象った細工があります。非常に精巧に作られていて、さらにかつては目に七宝が施されていたそうです。当時の技術の高さと豊かさを感じます。
ここには金の装飾品が並び、耳飾りや冠もありました。この頃既に鉱山もあったようで、あとは砂金なども使っていたとのことでした。
100 「少女の墓碑」
未婚のまま死んだ少女の墓碑です。複雑に髪の毛を結った少女(解説ではメロンのような頭と言われてましたw)が鏡を持っている姿です。あの世で立派な婦人になるという意味があるのか、立派な姿をしていました。
この辺は墓碑のコーナーとなっています。
[性と欲望]
さて、続いてのコーナーはギリシャ文明の性に関するコーナーで、変態だ!と思ってしまう衝撃の品々もありますw 隠し立てしない性的表現はありふれていて、幅広い造形物に見られるそうで、欲望を掻き立てるものとは限らず、お守りや豊穣の祈りの意味もあるとのことでした。
109 「サテュロスから逃れようとするニンフの像」 ★こちらで観られます
裸の男女の像で、女性に後ろから抱きつくサテュロスと必死に抵抗するニンフがモデルとなっています。ニンフはサテュロスの髪を引っ張っていて、サテュロスは痛そうな顔をしていますが離そうとしていないような…w その顔も含めて滑稽な感じがありました。解説によると、この時代の男女の関係は厳しくコントロールされていたそうで、自由奔放な性のイメージのこの作品は一種のポルノグラフィティのようなものだそうです。
102 「エロス像」 ★こちらで観られます
背中に羽の生えたエロス(キューピッド)の像です。トレードマークの弓を持っていますが、子供の姿ではなく青年の姿をしているのはちょっと違和感があるかな。 彼の矢に打たれると恋に落ちるという伝説は有名ですが、これが置かれていたのは教育の場の運動場だそうです。男しかいないはずの運動場に何故キューピッドが…?と思ったら、教育の場は若者(男)と年長者(男)の恋の出会いの場であったらしく、若者の成長に必要なこととして奨励されていたそうです。 ウホッw 15の嫁だの年上同性の恋人だの、古代ギリシャ人は衝撃的ですね。
この辺には乳房型の酒の杯や、地面からキノコのように生えた男根に水をやる女性が描かれた壺、若者に言い寄る男が描かれた壺、ポン引きの像など、なかなかにぶっ飛んだ� �が多くて目を白黒させられましたw こういう側面もあるんですね。
[個性とリアリズム]
ギリシャは都市国家(ポリス)の集まりであったのですが、やがて都市国家の垣根も越えて交流が広がり、他の民族とも出会い交流するようになったそうです。芸術面においても人間に関するより広い題材と多様な様式が生まれたそうで、ここにはそうした作品が並んでいました。
112 「ソクラテス小像」
小太りのオッサンの姿をしたソクラテスの小さな像です。真理を探求した高邁な精神と対照的な姿をしていて、禿げて丸々とした頬に鷲鼻、太鼓腹をしていたそうです。しかし、それでも表情はどこか厳格そうに見えたかな。人は見かけじゃないとは言いますが、ギリシャ文明においては見た目は内面の現れという考えじゃなかったっけかw
119 「ナックルボーンの勝負を巡って争う二人の少年の像」 ★こちらで観られます
ナックルボーンというのはサイコロの起源で羊や山羊の骨の遊びだそうで、その遊びが元で争う2人の少年を像にしたもののコピーです。とは言え、1人は腕だけのこして失われていて、残った少年はその腕に噛み付いています。いかにも子供の喧嘩という感じがありありで、今も昔も変わらぬヤンチャな子供のエネルギーを感じました。
この辺には少年の小像や、黒人の頭の水差しもありました。また、一番最後にはアンフォラや小像で役者や剣闘士などを表した作品があり、こちらも滑稽な作品や「グロテスク」と呼ばれる意図的に醜く表現された作品も並んでいます。 障害を持って生まれた人は、踊りや芝居をして生きるしか道がないという暗い側面も知ることができました。(そう言えば、冒頭に諸々に差別する気は無い� ��注意書きがありましたが、最後の章は確かに人権に関わるものが多かったかも…)
ということで、充実していて情報量の多い展覧会となっていました。混雑で鑑賞に差し障りが出るくらいだったので満足度はいらいですが、空いていたらイ世辰燭隼廚い泙后西洋美術の源流とも言える展示となっていますので、これは後々にも参考になると思います。会期が進むとますます混雑が予想されますので、興味のある方はお早めにどうぞ。
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